サンプル: Webshop
アカウント・カート・チェックアウトを Cloudflare D1 で動かすサーバーサイドレンダリングのショップ。全ルートが SSR で、クライアント JavaScript はゼロ
このページの内容
コンテンツ中心のサイトでは実現できないことをまとめて見せるストアフロントです。Cloudflare D1から毎リクエスト読み出すカタログ、メールアドレスとパスワードによるアカウントとサーバー側セッション、 カート、そしてカートの内容を注文として確定させるチェックアウト。全ルートが prerender = false なので、Worker 上の SSR が単一の動的ページではなくアプリケーション全体を 支えている様子を読み取れます。
このデモはクライアント JavaScript を 一切 出力しません。すべてのボタンは <form method="post"> です。
ライブデモ: zfb-example-webshop.takazudomodular.com
リポジトリ: Takazudo/zfb-example-webshop
何を示すか
完全な SSR サイト。7 つのルートすべてが
prerender = falseを export します。ビルド成果物に HTML ページは 1 枚も含まれず、SSR Worker とスタイルシートだけが出力されます。ページから D1 バインディングを読む。
getCloudflareContext<Env>()が Worker のenvと生のRequestをルートに渡し、カタログ・カート・注文はいずれもenv.DBへの素の SQL です。VNode ではなく
Responseを返す。Cookie をセットし、request.methodで分岐し、303 リダイレクトを 返すには Response オブジェクトそのものが必要なので、これらのルートは Preact ツリーを自分で文字列化します。Web Crypto だけで組んだ認証。PBKDF2 によるパスワードハッシュと、不透明なサーバー側セッション Cookie。認証ライブラリもクライアント JavaScript も使いません。
意図して選ばれた URL の形。注文確認ページはパスパラメータではなく
/という クエリ文字列です。リポジトリが挙げている理由は、今の zfb には当てはまりません。order? id= <n> Tailwind v4 のセマンティックなトークン設計。
@themeブロックで登録しています。
使用技術
| 項目 | リポジトリでの実際の内容 |
|---|---|
| フレームワーク | framework: "preact"(zfb.config.ts)と preact-render-to-string |
| zfb バージョン | @takazudo/zfb 2.3.0、@takazudo/zfb-runtime 2.3.0 |
| アダプター | @takazudo/zfb-adapter-cloudflare 2.3.0 — 導入済みで、動作の要 |
| スタイリング | Tailwind v4(tailwind: { enabled: true })。styles/ の @theme ブロックで oklch のカラートークンと 2 軸のスペーシングを定義 |
| レンダリング方式 | すべての ルートが export const prerender = false。SSG ページは存在しない |
| Cloudflare の形態 | Workers Static Assets。wrangler.toml の main = と [assets] ブロック |
| バインディング | D1 バインディング DB 1 つ(本番は webshop、プルリクエストは webshop-preview) |
| クライアント JavaScript | なし。island も <script> タグも、dist/ 内のクライアントバンドルも存在しない |
| コンテンツコレクション | なし。カタログは src/content/ ではなく D1 にある |
| その他の npm 依存 | ローカルの Cloudflare ループ用に wrangler・concurrently・chokidar-cli を devDependencies として使用 |
必要なものと設定
Cloudflare アカウントなしでもローカルで動きます。 pnpm install・pnpm build・pnpm typecheck はそれだけで完結します。ショップ本体もローカルで動かせます。README のセットアップ手順に wrangler login は登場しません。wrangler d1 migrations apply webshop --local が . 配下に SQLite データベースを作り、wrangler dev がそれを相手に Worker を 動かすからです。
Cloudflare が必要になるのはデプロイのときだけです。 実運用するなら次を用意します。
2 つの D1 データベース —
webshopとwebshop-preview。wrangler d1 createで一度だけ作成し (このリポジトリは一回限りのd1-bootstrap.ymlワークフローで実行)、得られたdatabase_idをwrangler.tomlにコミットしています。CI が作り直すことはなく、マイグレーションを適用するだけです。マイグレーションとシードデータ —
migrations/が0001_ init. sql products・users・sessions・cart_items・orders・order_itemsを作成し、migrations/が 12 件の カタログ商品を投入します。ユーザーはシードされません。サインアップのルートから作られます。0002_ seed_ products. sql wrangler.tomlのcompatibility_flags = ["nodejs_compat"]— 省略できません。zfb の Cloudflare アダプターはnode:async_hooksのAsyncLocalStorageでenvを SSR ルートに渡しており、この フラグがないと Worker が起動しません。アカウントスコープの API トークン — Workers Scripts(Edit)、D1(Edit)、Account Settings(Read)、 そして本番が
[[routes]]で宣言したカスタムドメインで配信されるため Workers Routes(Edit、ゾーン レベル)。順を追った手順はリポジトリのdocs/にあります。cloudflare- setup. md
Worker シークレットは不要です。 設定すべきものはなく、バインディングは DB だけです。
ライブデモは誰でも書き込めます
ライブサイトでは誰でもアカウントを作り、注文を確定できます。決済は行われず配送先も収集しません (チェックアウトは D1 に行を書くだけです)が、アカウントは公開された共有データベース上の実データです。 使い捨てのメールアドレスと、他で使っていないパスワードを使ってください。
仕組み
静的な HTML は 1 枚も出力されない
カタログの価格はリクエストごとに D1 から読むため、ビルド時に焼き付けられるものは何もありません。 各ページはそれを明示します。
// Catalogue prices and stock live in D1, so this route reads `env.DB`
// per request — it cannot be statically pre-rendered.
export const prerender = false;SSG ルートが 1 つも残らないので、ビルド成果物にページは含まれません。
dist/_worker.js # アダプターが出力する SSR Worker
dist/_zfb_inner.mjs # それが呼び出す内側のバンドル
dist/.assetsignore # 上の 2 ファイルを公開アセットから除外する
dist/assets/styles-*.css # コンパイル済みの Tailwind スタイルシート
dist/assets/app.css
dist/__zfb/routes.jsonここから、SSR サイトでもめったに踏まない結果がひとつ生まれます。zfb はハッシュ付きスタイルシートへの <link rel="stylesheet"> を、ビルド後の後処理として 生成された HTML に注入します。ところがこの サイトには注入先の HTML が存在しません。そこでレイアウトは / という固定パスを直接書き、 build スクリプトがハッシュ付きファイルをその名前へコピーする後処理を挟みます。
"build": "zfb build && node scripts/stable-css.mjs"scripts/ は 40 行ほどの copyFileSync で、dist/ がちょうど 1 つで なければエラー終了します。ハッシュ付きの本体は長期キャッシュ用にそのまま残り、コピーは SSR レイアウトが 参照するためのハンドルにすぎません。そのスタイルシートがどう作られるかは スタイリング と 静的アセット を参照してください。
ルートは VNode ではなく Response を返す
zfb は返された VNode を HTML にレンダリングしてくれますが、これらのルートはその経路を使えません。 request.method で分岐し、Set-Cookie を付け、303 で応答する必要があるからです。そこで Response を 返し、Preact ツリーの文字列化は lib/ の小さなヘルパーで自前で行います。
export const prerender = false;
export default async function CheckoutPage(): Promise<Response> {
const { env, request } = getCloudflareContext<Env>();
const user = await getUser(env, request);
if (!user) return redirect("/login");
if (request.method !== "POST") {
return redirect("/cart");
}
const orderId = await checkout(env, user.id);
if (orderId === null) {
// Nothing to buy — back to the (empty) cart.
return redirect("/cart");
}
return redirect(`/order?id=${orderId}`);
}getCloudflareContext<Env>() は Worker のリクエストスコープを取り出すアダプターのアクセサです (SSR と Cloudflare バインディング を参照)。その下は ごく普通の D1 です。
export async function listProducts(env: Env): Promise<Product[]> {
const { results } = await env.DB.prepare(
"SELECT id, name, description, price_cents, category, emoji FROM products ORDER BY id",
).all<Product>();
return results;
}すべての操作がフォーム送信
カート用の JavaScript も fetch も楽観的更新もありません。「Add to cart」はフォームです。
<form method="post" action="/cart">
<input type="hidden" name="product_id" value={product.id} />
<button type="submit" class="...">
Add to cart
</button>
</form>サインアウトも同じ形で、/ へ POST します。各 POST は書き込みを済ませたあと 302 ではなく 303 See Other を返します。303 ならブラウザは遷移先を GET で取りに行くので、表示されたページを リロードしてもフォームが再送信されません。これがこのサイトの操作モデルのすべてです。post して、 redirect して、get する。代償はクリックごとの往復で、見返りはスクリプトを無効にしても動き、 解析すべきバンドルを一切送らないショップです。
Web Crypto によるパスワードとセッション
lib/ は workerd が最初から備えているものしか使いません。パスワードは crypto.subtle 経由の PBKDF2 でハッシュ化します。SHA-256、10 万回のイテレーション、256 ビットのダイジェストと ユーザーごとの 16 バイトのソルトを、いずれも hex で保存します。理由もファイルに書かれています。 crypto.subtle は scrypt も argon2 も提供しておらず、素のハッシュはパスワードには使えないからです。
セッション Cookie は情報を一切持ちません。中身は 32 バイト分のランダムな hex で、sessions テーブルの 行を指すだけです。HttpOnly; Secure; SameSite=Lax; Max-Age=604800 を付けて送ります。リクエストごとに expires_at > datetime('now') で守られた JOIN でユーザーを解決し直し、該当がなければ、そのリクエストが 提示した id の行だけをその場で削除します。ここは正確に押さえておく価値があります。削除されるのは提示 された id に限られ、バックグラウンドの掃除処理はありません。Cookie の Max-Age はセッションの有効期間と 同じなので、放置されたセッションの行はそもそも二度と提示されず、テーブルに残り続けます。サインインは 未登録のメールアドレスでも パスワード誤りでも同じ「Incorrect email or password.」を返し、ダイジェストの比較は定数時間です。
チェックアウトはカートのスナップショット
注文の確定は、orders に 1 行を挿入し、カートの各行を 購入時点の価格を保存したまま order_items へ写し、カートを空にします。後からカタログの価格を変えても注文履歴は書き換わりません。 D1 には対話的トランザクションがないため、lib/ はまず注文行を単独で挿入し(行アイテムが その採番済み id を必要とするため)、続いて行アイテムの挿入とカートの削除を 1 回の env.DB.batch() に まとめて実行します。
注文 id がクエリ文字列である理由
確認ページは / ではなく / です。id はクエリ文字列に載せて new URL(request.url).searchParams で読みます。
これはこのデモが選んだ形であって、zfb の制約ではありません。pages/ にはそう読める古い コメントが残っており、[id].tsx のようなセグメントはビルド時の paths() の列挙からしか展開できない、 と書かれています。列挙できないという部分は事実です。注文 id は購入されるまで存在しないので、 列挙すべきものがありません。しかし prerender = false の 動的ルート はリクエスト時にマッチされ、paths() の export をまったく必要としません。ランタイムのルーターが コンポーネントに params を渡すので、pages/order/[id].tsx でも同じように動いたはずです。 ページモジュールの export を参照してください。
それでもこのページは一度きりの完了メッセージではなく、再訪できるレシートです。アクセスのたびに D1 から 注文を読み直し、クエリはサインイン中のユーザーに限定されるので、他人の注文 id や存在しない id は 404 になります。
ローカルで動かす
git clone https://github.com/Takazudo/zfb-example-webshop.git
cd zfb-example-webshop
pnpm install
pnpm build # zfb build && node scripts/stable-css.mjs
pnpm typecheck # zfb checkカート・アカウント・チェックアウトを実際に動かすには本物の DB バインディングが要るので、wrangler を 使います。
pnpm exec wrangler d1 migrations apply webshop --local # 初回のみ
pnpm dev:cfpnpm dev:cf はマイグレーションを適用し、pnpm build を 1 回走らせたあと、concurrently で wrangler dev --port 8788 と、pages/・components/・layouts/・lib/・styles/ の変更で pnpm build を再実行する chokidar ウォッチャーを並走させます。編集からブラウザ反映までは README に よればおよそ 1〜2 秒です。ローカルの SQLite データベースは再起動をまたいで保持され、.wrangler/ を 削除するとリセットされます。
pnpm dev と pnpm dev:cf を同時に実行しないこと
リポジトリ自身の注意書きはこうです。カートとアカウントは env.DB を読むので本物の Worker バインディングが必要で、zfb dev はそれを提供しません。D1 に触れる作業では wrangler dev の ループを使ってください。
さらに厄介なことに、pnpm dev の predev は rm -rf dist .zfb .zfb-build です。wrangler dev が 配信中の dist/ を消してしまい、再ビルドしてもリロードが走らない状態に陥ります。どちらか一方だけを 使ってください。両方走らせてしまったら、すべて停止して pnpm build を実行し、pnpm dev:cf を 再起動します(pnpm preview はビルド結果を確認する 3 つめの方法です。Cloudflare アダプターを設定して いれば zfb preview は wrangler dev に処理を委ね、本物の Worker を配信します。ただし再ビルドは しないので、編集に追従する開発ループではなく、完成した dist/ の確認手段です)。
関連ページ
Worker 上の SSR —
dist/と_ worker. js dist/の正体、_ zfb_ inner. mjs getCloudflareContext()の仕組みSSR と Cloudflare バインディング — SSR ハンドラーから D1 や KV を読む方法とバインディングの設定
動的ルート —
paths()の契約と、prerender = falseの動的ルートがリクエスト時にマッチされる仕組みルーティング —
pages/*.tsxが URL になるまでスタイリング — zfb における Tailwind v4